第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
看護師は慣れた手つきで、ベッドのすぐ隣へ敷布団を広げていく。
本当に、手を伸ばせば触れられる距離だった。
「無理して動かないでくださいね。夜中に何かあれば、すぐ呼んでください」
そう言い残し、看護師は病室を後にする。
扉が閉まる。
静かな沈黙が落ちた。
ラビは床へ敷かれた布団を見下ろし、それから深く息を吐く。
「……完全にガキ扱いされてんじゃん」
「でも、少し安心したでしょ?」
私がそう言うと、ラビは数秒黙り込んだ。
それから、観念したように小さく笑う。
「……否定できねぇのが悔しい」
ラビはゆっくり敷布団へ腰を下ろした。
包帯の巻かれた腕を庇うような動き。
火判の反動は、まだ抜け切っていないのだろう。
私は毛布へ沈み込んだまま、その横顔をぼんやり見つめた。
ラビもこちらを見ていた。
目が合う。
数秒の、静かな沈黙。
やがてラビが、ふっと目を細めた。
「……その顔してっと、ようやく安心すんな」
「どんな顔よ」
「いつもの顔」
掠れた声。
胸の奥が、また小さく揺れる。
私はその意味を深く考えないまま、小さく瞬きをした。
するとラビが、少しだけ身体を横向きにする。
「ほら、もう寝ろ」
低くて、優しい声だった。
私は毛布へ身体を沈め、小さく息を吐く。
右腕はまだ痛む。
けれど、彼の声が傍にあるだけで、瞼の裏へ浮かぶ遊園地の景色が少し遠のいていく気がした。