第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
処置が終わる頃には、病院の窓の外はすっかり暗くなっていた。
廊下には弱いランプの灯りが落ち、遠くで看護師たちの足音だけが静かに行き交っている。
「では、お二人はこちらへ」
看護師が、廊下の奥を示した。
「女性用の個室と、男性用の空き部屋を用意しました。今夜は安静にしてください」
私は小さく頷く。
「ありがとうございます」
けれど、隣のラビがなぜか動かなかった。
「……ラビ?」
呼び掛けると、彼ははっとしたように視線を逸らす。
「いや……別に」
そう返す声は、妙に歯切れが悪い。
けれど、その視線は一瞬だけ、私の右腕へ落ちていた。
白い包帯の巻かれた腕。
その上へ滲む、僅かな赤。
もしかして、置いていくのが不安なのだろうか。
そんな考えが浮かんだ瞬間、胸の奥が小さく揺れた。
看護師は気付いていないのか、穏やかな声で続ける。
「夜中に熱が上がるようなら、すぐ呼んでくださいね。少年については、こちらで責任を持って経過を見ます」
「……はい」
看護師が廊下の向こうへ消えていく。
残されたのは、私とラビだけだった。
静かな沈黙。
ラビはまだ動かない。壁へ凭れたまま、何かを押し殺すように目を伏せている。
私は少しだけ迷ってから、ぽつりと口を開いた。
「……なら、少しだけ話していく?」
ラビの翠の瞳が、ゆっくりこちらへ向く。
「どうせ眠れないんでしょう?」
純粋に、そう思っただけだった。
「あなただけ別室へ行ったら、また無茶しそうだもの」
数秒。
静かな沈黙が落ちる。