第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
返事はできなかった。
代わりに、包帯を解かれていく彼の腕へ視線を落とす。
赤く焼けた皮膚。
裂けた傷口。
無理やり力を使った痕跡。
こんなになるまで、彼は炎を止めなかった。
私を傷付けたAKUMAが消えたあとでさえ、止まれなかった。
胸の奥が、静かに痛む。
「はい、次は消毒しますよ」
医師がラビの腕へ薬液を当てた瞬間。
「っ……」
彼の眉が、本当に僅かに歪んだ。
ほんの一瞬だけ。
けれど、私はそれを見逃さなかった。
「……痛いの?」
無意識に口から零れる。
ラビがぴたりと止まる。
数秒の沈黙のあと、彼は困ったように笑った。
「今さらそこ聞く?」
「だって、あなた……ずっと何も言わないから」
「言ったところで、痛みが消えるわけじゃねぇだろ」
軽く返したつもりなのだろう。
けれど、その声にはまだ疲労が滲んでいた。
その時、処置室の扉が開いた。
別の医師が、カルテを片手にこちらへ歩いてくる。
「保護された少年の件ですが」
私は反射的に顔を上げた。
ラビの視線も、すぐにそちらへ向く。
医師は少し言葉を選ぶように黙り込み、それから静かに続けた。
「命に別状はありません。衰弱はしていますが、呼吸も脈拍も安定しています」
その瞬間、胸の奥へ張り付いていた緊張が、ほんの少しだけほどけた。
生きている。
あの子は、ちゃんとこの世界へ残っている。
けれど。
医師の表情は、晴れなかった。
「ただ……記憶と反応に深刻な障害が見られます」
空気が、静かに止まる。