第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
「動かさないでください」
医師の声と共に、傷口へ消毒液が触れた。
「……っ」
鋭い痛みに、思わず息を呑む。
その瞬間、向かいの椅子からラビが低く舌打ちした。
「……おい。もっと優しくできねぇのかよ」
「ラビ」
思わず名前を呼ぶ。
私の腕へ包帯を巻いていた医師は、呆れたように眉を寄せた。
「君、自分の火傷の方が酷いんだよ。人の心配をしている場合じゃない」
「オレは後でいい」
「後じゃ駄目よ」
今度は私が遮った。
ラビが、ぴたりと黙る。
「今、診てもらって」
その沈黙に、周囲の医師と看護師が妙な顔をした。まるで、どちらが患者なのか分からないというように。
「はいはい、二人とも大人しくしてください」
年配の医師が深く息を吐く。
「そっちの赤髪の君も座る。火傷、かなり深いよ」
ラビは露骨に不満そうな顔をした。
けれど、私が黙ったまま見つめていることへ気付くと、観念したように肩を竦める。
「……分かったさ」
向かいの椅子へ腰を下ろす。
その瞬間、ラビの顔がわずかに歪んだ。
普段なら、絶対に見せないような痛みの表情だった。
私は思わず眉を寄せる。
「……ラビ」
「見るなよ」
即座に返ってくる。
低い声。
けれど、怒っているわけではない。むしろ、弱った姿を見られたくないようだった。
「そんな顔をしているの、珍しい」
ぽつりと零すと、ラビが小さく舌打ちをする。
「誰のせいだと思ってんだ」
その言葉に、胸の奥が鈍く痛んだ。
あの触手が私の腕へ食い込んだ瞬間、ラビは炎を止められなくなった。
それを思い出すだけで、喉の奥が詰まる。