第13章 【第十二話】記録に残らない熱
私は小さく息を整える。
「……大丈夫。あの子を見ないと」
ラビは少年へ視線を向けた。
一瞬、何かを堪えるように唇を噛む。
それから、私の身体を支える腕へ静かに力を込めた。
「分かった。オレが支える」
「ラビ……」
「だから、無茶して走んな」
私は小さく頷いた。
「……ええ」
ラビの腕を借りるようにして、私はゆっくり少年の元へ向かった。
濡れた石畳へ膝をつき、そっと、その細い身体を抱き起こす。
驚くほど軽かった。
まるで、身体の中身まで少しずつ削り取られてしまったみたいに。
けれど。
「……っ」
少年の胸が、微かに上下している。
息をしている。
冷えた身体の奥に、ほんの僅かだけれど温もりが残っていた。
「……よかった」
掠れた声が、自然と零れる。
消えていない。
ちゃんと、この世界へ繋ぎ止められている。
私はそっと、少年の頬へ触れた。
冷たい。
けれど、生きている温度だった。
「ねえ……分かる?」
できるだけ優しく問い掛ける。
「名前は?」
少年の瞼が、ゆっくりと持ち上がった。
濁った瞳。
焦点の合わない視線が、私を映す。
けれど。
「…………」
何も答えない。
「……聞こえてる?」
もう一度声を掛ける。
それでも反応はなかった。
視線は合っている。
なのに、その奥には何も宿っていない。
まるで、中身だけがどこか遠くへ置き去りにされたようだった。