第13章 【第十二話】記録に残らない熱
「だから……お願いだから……間違いだったなんて言わないでっ……」
ラビは、何も答えなかった。
ただ、私の手を見つめている。
その瞳に浮かぶものが何なのか、私にはまだ分からなかった。
悲しみなのか。
安堵なのか。
それとも、もっと別の何かなのか。
けれど、彼が苦しんでいることだけは分かった。
そして、その苦しさを、なかったことにはしたくなかった。
しばらくして、ラビが小さく息を吐く。
「……ずりぃよ」
「え……?」
「そんなこと言われたら……余計、捨てられなくなんだろ」
掠れた声だった。
私はその意味を尋ねようとして、けれど言葉を飲み込んだ。
何を捨てるのか。
何を選べないでいるのか。
ただ、彼の手が私の指を離さないことだけが、胸の奥へ静かに残った。
その時だった。
「……あの子、まだ……!」
少し離れた場所から、トーマスの震えた声が響いた。
はっとして、私は広場の中央へ視線を向ける。
砕けた石畳の上に、少年が倒れていた。
薄い身体。
雨に濡れた髪。
今にもまた、空気へ溶けてしまいそうな輪郭。
「……っ!」
私は反射的に立ち上がろうとして、右腕へ走った激痛に息を詰めた。
足元が揺れる。
その瞬間、ラビの手が咄嗟に私の身体を支えた。
「無茶すんな」
低い声。
けれど今度は、責める響きではなかった。
まだ恐怖を引きずるように掠れていて、それでも、確かに私へ届く声だった。