第13章 【第十二話】記録に残らない熱
私は自由な方の手で、私の指を握り締めたままの彼の手へ触れる。
「ラビ。もう少し、力を抜いて」
「……」
「あなたの方こそ……手が震えているわ」
その言葉に、ラビは弾かれたように息を呑んだ。
ようやく、握る力が僅かに緩む。
けれど、完全には離れない。
縋るように、指先だけが私の手へ残った。
ラビは一度、深く息を吐いた。
それでも、呼吸はまだ上手く整わない。
「……今の俺は、どうかしてた」
低く、押し殺した声。
「記録者としての領分を超えてた。……忘れてくれ。あんなの、ただの暴走だ」
「嘘つかないでよ」
思わず、すぐに言葉が出た。
ラビの瞳が揺れる。
私は痛む腕を庇いながら、彼の団服へ指を添えた。
強く引き留めるつもりはなかった。
ただ、逃げるように言葉を閉ざしてほしくなかった。
「なかったことにできるわけないでしょう?」
自分の声が、僅かに震える。
「あなたは、自分の身を削ってまで私を助けた。ブックマンとしてじゃない」
ラビの顔が、苦しそうに歪んだ。
「……っ、やめろ。それ以上は……」
「ラビ」
「これ以上、言わせるな……」
掠れた声だった。
私の手を握る指が、再び強張る。
けれど、先ほどのように強く引き寄せることはしなかった。
ただ、自分自身を押し留めるように、震える指へ力を込めている。
重たい沈黙が落ちる。
やがて、ラビは諦めたように深く息を吐いた。