第13章 【第十二話】記録に残らない熱
私は、動けなかった。
ラビがこれほど取り乱した姿を、初めて見た。
いつも軽口を叩いて。
何も気にしていないように笑って。
どれほど危険な任務でも、どこか一歩引いた場所から周囲を見ていた彼が。
今は、私の肩へ額を押し当て、震えている。
私を失いかけた恐怖に、耐え切れないみたいに。
「……ラビ」
どう声を掛ければいいのか分からなかった。
私が傷付いたことで、ラビは我を失った。
けれど、それが何を意味するのかまでは、分からない。
きっと彼は、ブックマンとしてあるべき自分と、仲間を失いたくないと思ってしまう自分の間で、ずっと苦しんでいたのだ。
その苦しさが、私の傷をきっかけに、一気に溢れてしまったのだろう。
私は、そう思った。
しばらくして、ラビはゆっくりと額を離した。
けれど、私の手を握ったまま、目を伏せる。
「……歩けるか?」
低く、ひどく掠れた声だった。
視線は、私の右腕へ落ちている。
裂けた団服。
滲む血。
指先へ流れ落ちる赤い滴。
それを見るたび、ラビの指が小さく震えた。
「ええ……平気よ」
答えた瞬間、右腕へ鋭い痛みが走った。
思わず、眉が寄る。
その変化を見逃さず、ラビの瞳が大きく揺れた。
「……平気な顔じゃねぇだろっ」
吐き捨てるような声。
けれど、その奥には、隠し切れない焦りが滲んでいた。