第13章 【第十二話】記録に残らない熱
「絶対、戻せ」
鉄槌が巨大化する。
翠の瞳が、目の前のAKUMAを鋭く睨み据えた。
「お前たちには、指一本触れさせねぇから」
胸の奥が、強く揺れた。
私は少年へ視線を戻し、旋律へ力を込める。
「……ええ」
白銀の歌が、灰色の空間を押し広げていく。
少年の輪郭が、少しずつ戻っていく。
その時。
AKUMAの口元が、不気味に吊り上がった。
「ならば、まずは歌う娘を止めればよい」
黒い触手が、一斉に地面を這った。
「させるかよ!」
ラビが地面を蹴る。
巨大化した鉄槌が、迫る触手を横薙ぎに叩き潰した。
轟音と共に、濡れた石畳が大きく抉れる。
「ティファ、歌え!」
「分かってる!」
私は旋律を止めなかった。
少年の身体へ、白銀の光が降り注ぐ。
崩れかけていた輪郭が、少しずつ確かなものへ戻っていく。
けれど。
AKUMAの目が、ゆっくりと私へ向いた。
「ああ……やはり、お前は厄介だ」
次の瞬間。
少年へ向かっていたはずの触手が、一斉に軌道を変えた。
その先にいるのは――私だった。
「……っ!」
避けるため、足を引こうとした。
けれど。
踏み出したはずの地面が、遅れて返ってくる。
ほんの一瞬。
空間の歪みに、身体の動きが追い付かない。
冷たいものが、右腕へ巻き付いた。
息が止まる。