第13章 【第十二話】記録に残らない熱
「ティファ!」
ラビの声が響いた。
次の瞬間、触手が腕を引き上げる。
身体が大きく傾き、歌の旋律が揺らぐ。
さらに別の触手が、腰へ、足首へ、肩へと絡み付いた。
地面が遠ざかる。
視界が反転する。
「離して……!」
レイピアを顕現させようと意識を集中する。
けれど、歌を止めれば少年の輪郭がまた崩れる。
その一瞬の迷いを、AKUMAは見逃さなかった。
「その喉は壊せぬ」
耳障りな声が、近くで軋む。
「だが、手足の一本程度なら問題あるまい」
触手が、ゆっくり右腕へ食い込んだ。
嫌な音がする。
骨が軋む。
「っぁ……!」
鋭い痛み。
指先から感覚が消えていく。
歌が、大きく震えた。
ぞわり、と空気が冷える。
触手がさらに締め上がる。
ぶち、と。
皮膚が裂ける音。
血が飛んだ。
「――ティファ!!」
怒号にも似た叫びが、空間を裂いた。
息を呑む。
ラビの声だった。
けれど、それは今まで聞いたどんな声とも違っていた。
いつもの軽さも。
任務中の冷静さも。
何も残っていない。
翠の瞳へ、剥き出しの怒りが燃え上がる。
握り締められた鉄槌が、激しく震えた。
「……触んな」
低く、掠れた声。
次の瞬間、その声が炎のように弾けた。
「ティファに触んなァァッ!!」
鉄槌へ、爆発するように炎が走った。