第13章 【第十二話】記録に残らない熱
私は無意識に、喉元へ触れた。
そこには寄生型イノセンス――ニルヴァーナが眠っている。
本部を発つ前、コムイさんは繰り返し念を押していた。
今回の任務は、単なるAKUMA討伐ではない可能性があること。
以前、アンナの村で起きた“存在の消失”に似た歪みが確認されていること。
だからこそ、単独行動は決してしないこと。
私とラビの二人で調査へ向かうことになったのも、護衛という名目ではなかった。
あの現象へ反応できる可能性がある私と、異常事態の記録と判断に長けたラビが組まされた。ただ、それだけのはずだった。
「……行くさ」
すぐ隣から、ラビの声が落ちた。
振り向く。
赤茶色の髪は湿気を含み、額のバンダナの端が僅かに濡れている。脚のホルダーには、鉄槌が収められていた。
翠の瞳は、遠くの観覧車を真っ直ぐ見据えている。
本部を発ってから、彼は必要なこと以外、ほとんど口にしなかった。
任務の確認。
経路の確認。
ファインダーへの指示。
そのどれもが正確で、普段と変わらないはずなのに。
私へ向けられる声だけが、どこか慎重だった。
触れれば崩れてしまうものの手前で、足を止めているような距離。
「ティファ」
名前を呼ばれ、私は我に返る。
ラビはもう、遊園地へ続く道へ足を踏み出していた。
「離れんなよ。何か感じたら、すぐ言え」
「……ええ」
短く答え、私はその後を追った。
濡れた石道へ靴を下ろした瞬間。
足音が、遅れて響いた。