第13章 【第十二話】記録に残らない熱
「ならいい」
それだけ。
それ以上、話は続かなかった。
コンパートメントへ、再び汽車の音だけが満ちる。
ガタン、ゴトン――。
繰り返される振動の中、私は窓の外へ視線を戻した。
雪原はやがて途切れ、湿った土色の荒野へ変わっていく。
地面を覆っていた白は薄くなり、代わりに灰色の霧が低く這い始めていた。
その霧の向こうへ、枯れた林と、崩れかけた建物の影が時折現れては消えていく。
どれくらい走った頃だろう。
ラビが、向かいの席へ声を掛けた。
「トーマス。次の停車駅まで、あとどれくらいだ?」
「もうすぐです。終着の一つ前にある無人駅へ停車します。そこから遊園地までは徒歩でおよそ一キロほどで――」
言葉を遮るように、汽車が長い汽笛を鳴らした。
窓の外へ、濃い霧が流れ込む。
車輪が軋み、速度が少しずつ落ちていった。
私は窓硝子の向こうへ目を凝らす。
霧の中に、古びた駅舎がぼんやりと浮かび上がっている。
そのさらに奥。
灰色の空を背にして、巨大な観覧車の輪郭が見えた。
止まっているようで。
けれど、ほんの僅かに動いている。
ぎぃ……。
窓硝子越しでも聞こえた気がした、不快な金属音。
ラビが、低く呟いた。
「……着いたみてぇだな」
私は小さく息を吸い、立ち上がる。
窓の外の灰色の景色が、ゆっくりと停止していく。
その先に何が待っているのか。
まだ、私たちは知らなかった。