第13章 【第十二話】記録に残らない熱
翌朝。
まだ夜の冷たさを残した教団本部の正門前には、薄い霧が漂っていた。
吐いた息が白くほどけ、凍えた石畳の上へ消えていく。
私は団服の上から外套を羽織り、手荷物の留め具を確かめた。
喉の奥に眠るニルヴァーナは、今は静かだった。
けれど、昨日聞かされた報告を思い出すだけで、胸の奥へ冷たい不安が滲む。
少し離れた場所では、若いファインダーが大きな鞄の留め具を何度も確認していた。
彼は私に気付くと、慌てたように背筋を伸ばす。
「ティファ様ですね。今回同行させていただく、トーマスです」
「ティファでいいわ。よろしく、トーマス」
「は、はい。よろしくお願いします」
緊張の抜けない様子で頭を下げる姿に、僅かに口元が緩んだ。
その時、石畳を踏む足音が近付いてくる。
「おはようさ」
聞き慣れた声。
振り向けば、ラビがいつもの軽い笑みを浮かべながら歩いてきた。
昨日の回廊で交わした沈黙など、最初からなかったみたいに。
「おはよう、ラビ」
「おはよ。ちゃんと眠れたか?」
「少しは」
「そりゃよかった」
ラビは軽く笑う。
けれど、その視線は一瞬私へ触れただけで、すぐにトーマスへ向いた。