第13章 【第十二話】記録に残らない熱
「では、明朝六時に正門前へ集合だ。追加資料は、出発前に渡す」
コムイさんは、最後に私たちを順番に見た。
「二人とも。必ず戻ってくるんだよ」
その声は静かだった。
けれど、どんな指示よりも重く胸へ残った。
室長室を出る。
扉が閉じると、張り詰めた室内の空気が、冷たい回廊の静寂へ変わった。
隣では、ラビが受け取った資料へ視線を落としている。
話し掛けるなら、今しかない気がした。
「……ラビ」
呼ぶと、彼の指先が僅かに止まる。
けれど、こちらを見る前に、ラビは資料を軽く持ち上げた。
「悪ぃ、ティファ。出発前に確認しときたいことがあるんさ」
声は穏やかだった。
拒むような強さはない。
けれど、これ以上踏み込ませないための線だけは、はっきりそこにあった。
「ティファも、今日は休んどけ。明日から何があるか分かんねぇからな」
「……ええ」
それ以上、何も言えなかった。
ラビは軽く手を振ると、廊下の向こうへ歩き出す。
遠ざかっていく背中を見つめながら、私は胸元へ手を添えた。
明日、同じ任務へ向かう。
隣で戦うことになる。
それなのに、今の彼は、手を伸ばすほど遠ざかってしまう気がした。