第12章 【第十一話】触れてはいけない距離
その日の食堂は、珍しく人が多かった。
任務帰りの団員たちの話し声と、皿の触れ合う音が、広い空間へ賑やかに響いている。
私は資料整理を終え、少し遅れて食堂へ入った。
その時だった。
「えー、絶対嘘!」
明るい女性の声が聞こえた。
何気なく視線を向ける。
長椅子へ座ったラビが、科学班の女性団員たちに囲まれて笑っていた。
「ラビって絶対モテるでしょ」
「好きな人とかいないの?」
軽い雑談。
ただ、それだけのはずだった。
けれど、私の足はその場で止まった。
ラビは頬杖をつきながら、いつもの調子で肩を竦める。
「さぁな」
軽い声。
「オレ、そういう面倒なの向いてねぇし」
周囲から笑い声が上がる。
ラビも、それに合わせるように笑った。
胸の奥が、静かに冷えていく。
昨夜、あれほど苦しそうに私へ「今は聞くな」と告げた人が、何事もなかったように笑っている。
私が考えすぎていただけなのだろうか。
あの手の震えも。
逸らされた視線も。
すべて、私が勝手に重く受け止めていただけなのか。
そう思った途端、息が詰まった。
ふいに、ラビがこちらを見た。
目が合う。
彼の笑みが、一瞬だけ止まった。
翠の瞳が、わずかに見開かれる。