第12章 【第十一話】触れてはいけない距離
翌朝。
教団の回廊でラビとすれ違った時、私は無意識に足を止めていた。
「おはようさ、ティファ」
ラビはいつも通り、軽く手を振った。
声も。
笑みも。
出会った頃と変わらない。
けれど、私を見ない。
一瞬たりとも、視線を重ねようとしない。
「……おはよう」
返した声が、少しだけ小さくなった。
ラビは気付かなかったふりをして、そのまま私の横を通り過ぎる。
昨日までなら、余計な軽口を二つも三つも重ねてきたはずなのに。
今日は、何もない。
距離だけを、丁寧に残していく。
私は振り返れなかった。
呼び止めたところで、彼がまた何も答えないことが分かっていたから。
その日のラビは、誰に対してもいつも通りだった。
食堂でも。
回廊でも。
科学班の面々に声を掛けられている時でさえ。
明るく笑い、軽口を叩き、いつものラビとして振る舞っている。
けれど、私にだけは近付かない。
会話をしても、触れそうな距離へ来る前に自然と離れる。
昨日のことを、最初から存在しなかったことにするように。
その態度に胸が痛む理由を、私はまだ正しく理解できなかった。
ただ。
彼に避けられていることが、思っていた以上に苦しかった。