第12章 【第十一話】触れてはいけない距離
その夜、私はうまく眠れなかった。
任務の疲れが残っているせいだと思おうとした。
肩の傷が痛むから。
ニルヴァーナの反動で、喉の奥が熱を持っているから。
そう理由を並べて目を閉じる。
けれど、瞼の裏へ浮かぶのは、病院を襲ったAKUMAでも、帰路の雪原でもなかった。
――こうなるから、嫌なんさ。
掠れた声。
掴まれた手首へ伝わった熱。
そして、最後まで答えをくれないまま背を向けたラビの姿。
私は目を開いた。
窓の外には、薄い月が浮かんでいる。
ラビは、私に何かを隠している。
書庫でブックマンから告げられていた言葉と、関係があるのだろう。
セトラの生き残りに情を持つな。
情は、記録を曇らせる。
その言葉に従おうとして、私から離れようとしている。
そこまでは分かる。
けれど。
どうして、あんな顔をしたのだろう。
どうして、私の手を掴んだまま、あれほど苦しそうにしていたのだろう。
答えは出ない。
胸の奥に残るのは、理由の分からない痛みだけだった。