第11章 【第十話】巻き戻らない時間
「……はい」
喉元へ添えた指先が、僅かに冷えた。
分かっていたことのはずだった。
母の死をきっかけに、ニルヴァーナが目覚めた日から。
そして、アンナの村で、歪められた魂の残響へ触れた時から。
けれど、改めて教団の室長の口から告げられると、自分の力が持つ意味が、今までとはまるで違う形で迫ってくる。
「もし、千年伯爵側が君の能力を正確に知れば……放置はしないだろう」
病室の空気が、静かに冷えていく。
「……私が、狙われる可能性があるということですか」
問い掛ける声は、思っていたよりも落ち着いていた。
答えたのは、ブックマンだった。
「その可能性は高いだろうな」
低く、乾いた声。
窓から差し込む薄明かりの中で、ブックマンの片目が鋭く細められる。
「千年伯爵にとって、死者の魂はAKUMAを生み出すための要じゃ。お主の歌は、その根へ触れ得るもの」
杖の先が、静かに床へ触れる。
「向こうが、すでにどこまで把握しておるかは分からん。じゃが、知られれば厄介な存在として見過ごされることはあるまい」
胸の奥が、静かに締め付けられる。
エクソシストとして戦う覚悟はあった。
AKUMAと刃を交え、魂を解放するために命を懸けることも。
けれど。
自分の存在そのものが、敵にとって捕らえるべきもの、あるいは排除すべきものになるかもしれない。
そう思うと、身体の内側へ冷たいものが沈んでいく。