第11章 【第十話】巻き戻らない時間
リナリーの病室へ戻ってから、どれくらい経ったのだろう。
窓の外では、白み始めた空が少しずつ朝の色へ変わりつつあった。
けれど、彼女はまだ静かな眠りの中にいた。
白い寝台の傍には、ブックマンが立っている。
小さな布の上へ、治療に使った鍼を一本ずつ静かに並べ直していた。
私は音を立てないように椅子へ腰を下ろし、眠るリナリーの顔を見つめる。
「……リナリー」
小さく呼び掛けても、返事はない。
長い睫毛は閉じられたまま、青白い頬へ微かな影を落としている。
けれど、先ほどコムイさんから告げられた言葉があった。
命に別状はない。
容態は安定している。
その言葉だけを、胸の内で何度も繰り返す。
「心配するでない」
不意に、ブックマンの低い声が落ちた。
「治療は済んでおる。リナ嬢は強い娘じゃ。今は眠らせておく方がよい」
「……はい」
頷いたものの、寝台の上に置かれた細い手を見ていると、胸の奥の痛みは消えてくれなかった。
目覚めた時、彼女は何を思うのだろう。
アレンのことを。
今回の任務のことを。
あの、ノアと呼ばれる存在のことを。
考えかけた、その時だった。
控えめに、病室の扉が叩かれる。