第10章 【第九話】空白の再会
石畳の続く「巻き戻しの街」の外れに建つ病院へ辿り着いたのは、夜が明けきる少し前だった。
朝霧が窓を白く染め、遠くで朝を告げる鐘の音が微かに響いている。
街は、驚くほど静かだった。
石造りの家々も。
狭い通りへ並ぶ店先も。
朝の支度を始める人々の姿も。
見たところ、どこにも戦いの跡など残っていない。
ここで何が起きたのかを知らなければ、ただ朝を迎えようとしている、穏やかな街にしか見えなかった。
けれど。
この穏やかな街を巡る任務の中で、アレンとリナリーは傷付き、今も病院で眠っている。
目に見える傷跡が何一つ残っていないからこそ、胸の奥へ落ちる不安は、余計に冷たかった。
私自身も、別の任務を終えたばかりだった。
長い移動と戦闘の疲労が身体へ残り、喉の奥には、イノセンスを発動したあとの微かな熱が沈んでいる。
病院の廊下を進む途中、足元がほんの一瞬だけ揺れた。
けれど、壁へ手を添え、すぐに姿勢を正す。
今は、自分の疲れに構っている場合ではなかった。
受付で教えられた病室の前へ辿り着く。
白い扉の前で、指先が僅かに止まった。
この向こうに、アレンがいる。
何度も入れ違い続けた彼が。
けれど、ようやく会えるはずの彼は、戦いで傷付き、眠っている。
街は何事もなかったように朝を迎えようとしているのに。
彼だけが、その見えない戦いの痛みを身体へ残している。