第9章 【第八話】記録者の選択
彼は小さく息を吐く。
それから、握っていた手の力を、少しだけ緩めた。
「じゃあ、心配はする」
「ええ」
「たぶん、これからも。ティファが無茶しそうになったら止めるし、怪我してたら林檎も剥く」
「林檎は自分で食べられるわよ」
「そこは譲らねぇさ」
ようやく、いつもの調子が少しだけ戻る。
けれど、その声音はもう、無理に明るく作られたものではなかった。
「でも」
ラビが、静かに続ける。
「閉じ込めるみたいに守るのは、やめる」
私は彼を見つめた。
「ちゃんと、隣にいる」
その言葉へ、静かに頷く。
「ええ」
「代わりに、危なくなったら絶対呼べよ」
「約束するわ」
「……約束、多くなってきたな」
少しだけ困ったように、ラビが笑った。
その笑みは、ようやく力の抜けた、本物の笑顔に見えた。
「守れば問題ないでしょ?」
「それもそうだな」
ラビの指先が、一度だけ私の手を強く握り返した。
その力は優しい。
けれど、どこか必死でもあった。
まるで。
隣にいてほしいと願ってしまった自分を、もう誤魔化せなくなったみたいに。