第2章 【第一話】雪に残る歌
歪んだ仮面が崩れ落ちる。
黒い身体が、光の粒へと変わっていく。
そして、最後の瞬間。
少女の泣き声が、ふっと止んだ。
代わりに聞こえたのは、風に溶けてしまいそうなほど穏やかな声だった。
『……ありがとう』
光が、空へ昇る。
あの日、母を包んだものと同じ白銀の輝き。
けれど、その光には、消えきらない痛みと悲しみが混じっていた。
歌が途切れる。
力が抜け、私はその場に膝をついた。
震える手を見つめる。
この声で、私は一つの存在を壊した。
けれど、あの少女は最後にありがとうと言った。
それが正しかったのか。
救いだったのか。
幼い私には、まだ分からなかった。
「……立て」
師匠の声が降ってくる。
顔を上げることができない。
「……私……」
「それがお前の力だ」
淡々とした声。
「死んだ魂を送るだけじゃねぇ。AKUMAに囚われた魂を解放するには、お前が戦って、浄化しなきゃならねぇ」
涙が雪へ落ちる。
「……怖い……」
初めて、そう口にした。
師匠は少しだけ黙った。
けれど、優しい慰めは返ってこなかった。
「怖くなくなる必要はねぇ」
意外な言葉に、私は顔を上げる。
師匠は既に背を向けていた。
「怖ぇまま歌え。痛みを忘れた奴から、化け物になる」
それだけ言って、歩き出す。
私は袖で涙を拭い、雪へ手をついた。
足はまだ震えている。
胸の痛みも消えない。
それでも、立ち上がる。
母を送った歌。
母を奪ったAKUMAを消した歌。
そして、少女を苦しみから解き放った歌。
そのすべてを抱えたまま、私は師匠の背中を追った。