第2章 【第一話】雪に残る歌
AKUMAが、ぎちりと身体を鳴らした。
その笑い声が、あの日の記憶と重なる。
母の血。
黒い星。
灰へ崩れた指。
何もできずに泣いていた自分。
息が苦しい。
歌わなければ。
分かっているのに、声が出ない。
その時だった。
微かに、声が聞こえた。
『……たすけて……』
私は息を呑む。
AKUMAの奥から聞こえる。
幼い少女の声だった。
泣きながら、震えながら、助けを求めている。
「……中に……誰かいる……」
師匠は答えなかった。
「この中に……女の子が……助けてって……」
「魂だ」
静かな声が返ってくる。
「AKUMAは、人間の魂を縛りつけて動く兵器だ」
「……じゃあ、送れば……」
胸の奥へ、僅かな希望が灯る。
母のように。
歌えば、この少女も優しく空へ送れるのではないか。
けれど、師匠の声は容赦なくそれを断ち切った。
「母親の時と同じだと思うな」
「……え……?」
「死者の魂なら、お前の歌で送れる。だが、そいつはもうAKUMAの器へ縫い付けられてる」
少女の泣き声が、再び聞こえる。
『いたい……こわい……帰りたい……』
胸が締め付けられる。
「じゃあ……どうすれば……」
「浄化しろ」
師匠の目が、真っ直ぐ私を射抜く。
「器ごと壊して、苦しみを終わらせろ」
壊す。
その言葉に、身体が震えた。
それが本当に救いなのか、私には分からなかった。
歌えば、この少女まで消してしまうような気がした。
迷った、その瞬間。
AKUMAの腕が鋭く振り上げられる。
避けられない。
死が目の前へ迫った、その時だった。
乾いた銃声が響く。