第2章 【第一話】雪に残る歌
それから暫くして、師匠は私を一つの村へ連れて行った。
空は厚い雲に覆われ、昼間だというのに薄暗い。
村へ近付くにつれ、鼻を刺すような鉄の匂いが濃くなっていく。
辿り着いた場所は、異様なほど静かだった。
風は吹いている。
煙突からは、まだ細い煙が上がっている家もある。
それなのに、人の声だけが綺麗に消えていた。
道の端には、水の入った桶が倒れている。
雪の上には、何かを引きずったような跡。
半開きの扉の向こうには、ひっくり返った椅子と砕けた皿が見えた。
壁際には、黒い灰が薄く積もっていた。
それを見た瞬間、胸の奥が強く縮む。
母の最期が、否応なく蘇った。
「……師匠」
「黙ってろ」
師匠は周囲へ鋭く視線を走らせる。
次の瞬間、屋根の上で金属が軋む音がした。
顔を上げる。
そこにいたのは、歪んだ仮面を持つ異形だった。
黒く鈍い身体。
人ならざる形。
あの日、母を殺した存在と同じ気配。
身体が、凍りつく。
「……あれ……」
「AKUMAだ」
師匠の声が低く落ちる。
「千年伯爵に作られた、人殺しの兵器だ」
その名前が、胸へ突き刺さる。
AKUMAは仮面の奥で笑い、屋根から勢いよく飛び降りた。
地面が大きく揺れ、雪が弾け飛ぶ。
私は反射的に後ろへ下がった。
足が絡まり、雪の上へ倒れ込む。
「戦え」
師匠の声が響いた。
私は振り返る。
「……え……?」
「そいつを浄化しろ」
師匠は銃へ手を伸ばそうともしていない。
本気で、私一人に戦わせるつもりなのだ。
「無理……」
喉が震える。
「私、まだ……」
「無理なら死ぬだけだ」
冷たい言葉が落ちる。