第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
ふと顔を上げると、ラビと目が合った。
彼はすぐに視線を逸らし、何でもないようにパンを齧る。
けれど、その耳がまだ僅かに赤いことに気付き、私は小さく笑った。
「……何笑ってんさ」
「何でもないわ」
「絶対何かある顔してんだろ」
軽口を交わす声の向こうで、食堂の朝の喧騒が続いている。
冷たく、不穏な影を残した初任務のあとで。
私の胸へ残ったのは、痛みだけではなかった。
名を失った村の記憶。
アンナの小さな命。
そして、笑顔の奥へ距離を置いていたはずの少年が、初めて見せた、隠しきれない温度。
それが何を意味するのか、今の私にはまだ分からない。
けれど。
あの冷たい雨の夜から、私とラビの間にあった距離は、確かにほんの少しだけ変わり始めていた。