第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
「分かっているわ」
「分かっててやってんのが、一番厄介なんさ」
私の前まで来ると、ラビは手を差し出した。
「今日は終わり」
「まだ始めたばかりなのに」
「その始めたばかりで、もう足が遅れてる」
胸が詰まる。
自分では隠せているつもりだった。
けれど、彼は見逃さなかった。
「……本当に、よく見ているのね」
小さく言うと、ラビの指先が一瞬だけ止まる。
「……見えるもんは仕方ねぇだろ」
どこか不機嫌そうに返しながら、彼は私の手から一本目のレイピアを取り上げた。
「ちょっと、ラビ」
「もう一本も寄越せ」
「嫌よ」
「子どもかよ」
「まだ動けるわ」
言いながら、私は残ったレイピアを構え直した。
けれど、踏み込もうとした瞬間。
足元が、わずかに揺れた。
「あ……」
視界が傾く。
力を入れたはずの脚が、思うように床を捉えない。
次の瞬間、身体が前へ崩れた。
「ティファ!」
強い腕が、咄嗟に肩と背を支える。
床へ落ちるはずだった身体は、ラビの胸元へ引き寄せられていた。
手から滑り落ちたレイピアが、石床へ乾いた音を立てて転がる。
「……っ、ごめんなさい」
息を整えようとする。
けれど、胸の奥が苦しく、言葉がうまく続かない。
「少し、力が抜けただけで――」
「少しじゃねぇだろ!」
ラビの声が、鋭く響いた。
思わず顔を上げる。
翠の瞳には、怒りより先に焦りが浮かんでいた。