第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
「でも」
低く、少しだけ掠れた声。
「記録から消えたもんを、自分の中へ残そうとする奴は……初めて見たかもしれねぇ」
私はペンを置いた。
「ラビは、しないの?」
「オレは記録する側だからな」
「記録することと、覚えていることは違うの?」
ラビの表情が、ほんの僅かに揺れた。
問い詰めたつもりはなかった。
けれど、その言葉は彼の中の何かへ触れたらしい。
翠の瞳が、私ではなく、手帳の文字へ落ちる。
「……違うさ」
しばらくして、彼は呟いた。
「記録は、必要だから残す。感情なんか混ぜなくても、事実は事実として残る」
「ええ」
「でも、覚えてるってのは……多分、もっと面倒だ」
言い終えると、ラビは小さく笑った。
いつもの明るい笑みとは違う。
どこか諦めに似た、薄い笑みだった。
私はそっと手帳を閉じた。
「それでも、私は覚えていたいわ」
「……だろうな」
ラビは、困ったように息を吐いた。
「 ティファは、そういう顔してる」
「どんな顔?」
「見つけたものを、簡単には手放せねぇ顔」
その声が、思いのほか近く落ちた。
顔を上げると、ラビの翠の瞳が私を見ている。
初めて出会った時に感じた、観察する目。
けれど今は、その奥に別のものが混じっていた。
記録するためではなく。
理解できないものを、もっと知りたいと願ってしまったような。
そんな静かな揺れ。