第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
握っていたペンへ、指先に力が入る。
「せめて、誰か一人くらいは覚えていたいの。あの子には、確かに大切に想ってくれた人がいたって」
書庫へ、沈黙が落ちた。
遠くで、古い時計の振り子がかすかに鳴っている。
ラビは机の端へ手を置き、暫く手帳の文字を見下ろしていた。
その横顔には、いつもの冗談めいた笑みも、何かを見定める乾いた冷たさもなかった。
「……変な奴」
やがて、低い声が落ちる。
私は僅かに顔を上げた。
「そうかしら」
「そうさ」
ラビは小さく息を吐いた。
「普通、そこまで拾ってたら潰れる。残せるもんだけ残して、あとは切り離さねぇと、次の記録へ進めない」
その言葉は、ブックマンの後継者としてのものなのだろう。
多くの戦場を見て。
数えきれない死を記録して。
それでも、歩き続けるために身につけた距離。
けれど、ラビの声は、自分へ言い聞かせているようにも聞こえた。
「……あなたは、そうしてきたの?」
問いかけると、ラビの指先が僅かに止まった。
「さぁな」
軽く返す。
けれど、こちらへ向いた瞳は笑っていなかった。
「少なくとも、全部抱えて泣いてたら、ブックマンにはなれねぇさ」
胸の奥が、静かに揺れた。
「……そう」
私がそれ以上聞かなかったからか、ラビは暫く黙っていた。
やがて、手帳へ書かれたアンナの名へ視線を戻す。