第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
ラビは何も言わない。
ただ、翠の瞳が僅かに伏せられた。
「私は、あの子のお母さんを送った」
自分の声が、ひどく遠く聞こえる。
「苦しみから解放するためだった。あのまま縛られていれば、アンナも消えていた。分かっているの」
それでも、言葉がそこで止まった。
ラビは壁から身体を離し、ゆっくりこちらへ歩いてきた。
「……だからって、簡単に納得できるわけじゃねぇよな」
低い声だった。
慰めるために無理に明るくするわけでもない。
正しい選択だったと、軽々しく言い切るわけでもない。
ただ、私の胸へ残る痛みを、そのまま見つめるような声だった。
私は、窓の外へ視線を落とした。
「……救えたと思ったのに」
掠れた声が零れる。
「アンナは生きている。それなのに、あの子の中から大切なものが消えていくのを見ていると……本当に救えたのか、分からなくなる」
「救いってのは、全部元に戻すことじゃねぇだろ」
ラビの声が、すぐ傍で落ちた。
私は振り向く。
彼は、真っ直ぐ私を見ていた。
「戻らねぇものはある。消えたもんも、送った魂も、取り戻せねぇ記憶も」
その言葉は、冷たく聞こえるはずだった。
けれど、彼の声には、嘲りも突き放す色もなかった。
「それでも、あの子は今、生きてる。母親の魂だって、苦しみながら縛られたままじゃなく、あんたの歌で還れた」