第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
廊下へ出ると、窓の外には深い藍色の帳が降りていた。
昼から続く冷たい雨が、石畳を濡らし続けている。
医務室で聞いたアンナの声。
室長室で告げられた現実。
そのどちらも、胸の奥に重く沈んだままだった。
足を止め、窓辺へ視線を向ける。
雨に濡れた中庭が、ランプの淡い灯りを滲ませている。
「……随分ひでぇ顔してるさ」
不意に聞こえた声へ、顔を上げた。
少し離れた壁へ背を預け、ラビが立っている。
頬の傷には白い布が当てられ、裂けていた団服の肩口も簡単に繕われていた。
それでも、いつもより僅かに動きが鈍い。
痛まないはずがない。
「……傷は、大丈夫なの?」
思わず尋ねると、ラビは片手をひらひらと振った。
「これくらいなら平気さ。それより」
翠の瞳が、静かに私を捉える。
「アンナのところ、行ってきたんか?」
私は小さく頷いた。
「……ええ」
「どうだった?」
尋ねられ、すぐには答えられなかった。
雨音が、二人の間へ落ちていく。
「……私のことを、覚えていなかったわ」
ラビの表情から、薄い笑みが消えた。
「村で目を覚ました時には、母親がいたことだけは覚えていたの。顔も、声も分からないと言っていたけれど……それでも、お母さんと呼んでいた」
唇が震える。
「でも、今日は……“おかあさんって、だれ”と聞かれた」