第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
「村に残っていた魂も、 ティファちゃんの歌によって解放された。そこまでは間違いない」
私は、小さく頷いた。
光の中へ昇っていった、無数の輪郭。
最後にアンナを振り返った、あの女性の光。
あれは確かに、苦しみから解放された魂だった。
「けれど、既に失われた村人たちの記録や、アンナの記憶までは戻らなかった」
コムイさんの声が、さらに沈む。
「この術は、ただ死者の魂を留めていただけじゃない。死者へ繋がる生者の記憶や存在まで、少しずつ巻き込んで削っていたんだろう」
私は手を握り締めた。
「……では、アンナの記憶は……」
「現時点では、戻るかどうか分からない」
静かな答えだった。
優しい言葉で誤魔化すことなく、けれど突き放すこともない。
だからこそ、その現実が胸へ重く落ちた。
「AKUMAによる破壊ではない。イノセンスの暴走でもない」
コムイさんは、焼けた紋様の写しへ視線を向けた。
「死者の魂を現世へ留めようとした結果、生者や記録にまで侵食が及んだ。少なくとも、僕たちが把握している既存の現象には当てはまらない」
「何者かが、死を覆そうとしておる」
ブックマンの低い声が続く。
「還るべき魂を還さず、終わった命を終わらせず、現世へ縛りつけるためにな」
喉の奥で、ニルヴァーナが微かに熱を持った。
母の歌とは、正反対の力。
解放するのではなく、縛るもの。
送るのではなく、引き留めるもの。