第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
空が白み始めた頃、私たちは村の入口まで戻っていた。
アンナは泣き疲れて眠っている。
私は彼女を背負おうとしたけれど、歌の反動で足元が覚束ず、結局ラビが抱えることになった。
「怪我をしているのに……」
「ティファが途中で倒れる方が面倒だろ」
「でも」
「でもじゃねぇさ。あんたは喉と足を休ませろ」
ラビはそう言って、眠るアンナを抱き直す。
腕の傷は痛むはずなのに、少女を抱える手つきは思いのほか優しかった。
アンナの胸元には、母親の面影を残す唯一のものとなった布人形が抱かれている。
その人形へ視線を落とすたび、白い光へ包まれて還っていった女性の魂が脳裏へ浮かんだ。
ブックマンは、村の入口で一度だけ足を止めた。
手元には、焼けた紋様を書き写した紙と、名前の消えた墓地の記録、それから誰の名も残っていない村の台帳がある。
「じじい」
ラビが低く呼ぶ。
「分かったのか。誰がやったのか」
ブックマンは、すぐには答えなかった。
灰色の空を背に、消えかけた村を振り返る。
「断定はできん」
その声は、いつも以上に重かった。
「だが、この術の根にあるものは、ティファ嬢の歌と無関係ではない」
私は息を呑んだ。
「私の……?」
「正しくは、お主の血に連なるものじゃ」
喉の奥で、ニルヴァーナが小さく震える。
セトラ。
母が受け継ぎ、私へ残した血。
魂を導くための歌。
それと同じ源から、こんな歪んだ力が生まれたというのだろうか。