第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
「……」
「離すことと、見捨てることは同じじゃねぇさ」
翠の瞳が、眠る少女へ向けられる。
「帰る場所へ送ってやったんだろ。あんたの歌で」
胸の奥へ、温かな痛みが広がった。
慰めではない。
失われた母親が戻るわけでもない。
少女の傷が消えるわけでもない。
それでも、ラビの言葉は、崩れそうな足元へ僅かな地面を残してくれた。
「……ありがとう」
声を絞り出す。
ラビは一瞬だけ目を逸らした。
「別に。オレは見たまま言ってるだけさ」
軽い言い方だった。
けれど、その声は、いつもよりずっと静かだった。
その時。
「まだ終わってはおらん」
ブックマンの低い声が落ちた。
彼は広場の中央へ歩み寄り、先ほど黒い霧の核があった場所へ膝をついている。
石畳には、焼け焦げた細い線が幾重にも残されていた。
まるで、巨大な縫い跡。
死者の魂を、この場所へ縫い留めるために刻まれた、異様な紋様。
「これは……」
私はふらつく身体を押さえながら、ブックマンの傍へ近付いた。
「イノセンスではないのですか?」
「違う」
ブックマンは即座に答えた。
その声が、ひどく低い。
「AKUMAの痕跡でもない。」
「では、何が……」