第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
「来るなら、来いよ……!」
低い声。
胸の奥が、強く締め付けられた。
つい先ほどまで、戻るべきだと言っていた彼が。
私の判断を危険だと見抜いていた彼が。
今は、私が歌い続けられるように、身体を張って霧を受け止めている。
――私を信じて。
そう言った言葉へ、彼は応えてくれている。
私は歌を強めた。
白銀の光が広場へ満ちていく。
縛られていた白い影が、一つ、また一つと、淡い光を宿し始める。
黒い糸が軋む。
苦しみに歪んでいた死者たちの声が、少しずつ穏やかな音へ変わっていく。
届いている。
この人たちは、まだ救える。
終わらせるためではなく。
苦しみから解放し、あるべき場所へ還すために。
私は歌う。
けれど、その時。
母親の魂へ絡んだ黒い糸が、少女の胸元へ深く沈み込んだ。
「……っ、あ……!」
少女の小さな身体が大きく震える。
抱き締めていた布人形が、石畳へ落ちた。
「おかあ……さん……!」
母親の魂が、必死に少女へ手を伸ばす。
けれど、その腕もまた黒い糸に引かれ、輪郭を崩していく。
このままでは、母親を解放するより先に、少女まで歪みへ呑み込まれる。
「ラビ!」
私の叫びに、彼が振り返る。
「その子を、霧の外へ!」