第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
その周囲には、白い影が幾重にも揺れている。
人の形を保ちきれない、薄い輪郭。
老いた者。
若い者。
小さな子供。
そのどれもが声にならない苦痛を纏い、教会と墓地を繋ぐように、黒い糸で地面へ縫い留められていた。
死者たち。
還ることを許されず、この地へ留め置かれた魂。
「……おかあ、さん……」
少女の声が、霧の中で儚く震えた。
その呼び声へ応えるように、白い影の一つが微かに揺れる。
女性の輪郭だった。
形は曖昧で、顔も分からない。
それでも、細い腕が少女へ伸ばされている。
触れられないまま。
抱き締めることもできないまま。
黒い糸に縛られ、ただ苦しげに震えている。
胸の奥を、鋭い痛みが貫いた。
あの人が、この少女の母親なのだ。
既に死んでいる。
けれど、天へ還ることも許されず、我が子の傍で苦しみ続けている。
私は駆け寄ろうとする。
けれど、足が途中で止まった。
歌えば、縛られた死者たちを解放できるかもしれない。
少女の母親を、苦しみから救えるかもしれない。
けれど。
魂を送れば、その母親は本当にこの地からいなくなる。
生きている少女の手から、母の気配さえ奪うことになる。
この子を救うために、今度こそ母親との別れを決定づけることが、本当に救いと呼べるのだろうか。