第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
村の中央へ近付くほど、霧は濃くなっていった。
道の左右に並ぶ家々には、生活の痕跡が残っている。
開いたままの扉。
倒れた椅子。
床へ落ちたままの編み籠。
食卓には、乾ききらないスープの跡さえあった。
人が暮らしていた。
ほんの少し前まで、確かにここで息をしていた。
それなのに、誰一人いない。
家の壁にかけられていたらしい家族の肖像画は、顔の部分だけが白く抜け落ちている。
玄関に置かれた子供用の靴は残っているのに、誰のものだったのかを示す札だけが空白になっている。
道の先には、小さな墓地があった。
いくつもの墓標が並んでいる。
けれど、石へ刻まれていたはずの名前は、すべて削り取られたように消えていた。
墓はある。
埋葬された者もいたはずだ。
それなのに、誰が眠っていた場所なのかだけが、失われている。
「……死者から、始まったのね」
思わず、声が零れた。
ブックマンが低く応える。
「おそらくな。何者かが、この墓地に眠る魂へ術を施した。還るべき死者を現世へ留めようとしたのだろう」
その歪みが。
死者だけに留まらず、生きていた村人たちへまで広がった。
胸の奥が、冷たく沈む。