第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
列車を降り、さらに馬車で半日ほど進んだ先に、その村はあった。
夕暮れの光はとうに薄れ、空には灰色の雲が垂れ込めている。
村の入口へ立った瞬間、私は足を止めた。
「……何、これ……」
静かだった。
けれど、ただ人の気配がないというだけではない。
石畳を踏む音が、途中で切れる。
風が家々の間を抜けているはずなのに、木の葉は揺れても音が届かない。
壁も、窓も、道端に倒れた荷車も、どこか輪郭が薄い。
まるで、世界から少しずつ消しゴムで削られているようだった。
「記録どおりだな」
ブックマンが低く呟く。
彼は村の入口に立つ古びた標識へ目を向けた。
「村の名が消えておる」
私も標識を見る。
木板の表面には、文字が刻まれていたはずの溝だけが残っている。
けれど、それが何という名前だったのか、どうしても読み取れない。
文字だけが、最初から存在しなかったかのように抜け落ちていた。