第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
コムイ室長の執務室は、相変わらず乱雑に積み上がった書類の山と、深く濃いコーヒーの芳香に満ちていた。
窓の外は、重たい雲に覆われている。
昨日仕上がったばかりの黒い団服は、まだ身体へ馴染みきっていなかった。
襟元から胸元へ走る細い銀の縁取り。左胸へ据えられた教団の紋章。肩へ添えられた銀色の装甲。
鏡の前で見た時よりも、今この部屋で任務を待つ方が、その重みをはっきりと感じる。
デスクの向こう側で、コムイさんが一枚の薄汚れた羊皮紙を持ち上げた。
「ティファちゃん。新しい団服の着心地を確かめる暇もなくて申し訳ないんだけれど、君の初任務が決定したよ」
私は小さく息を吸い、姿勢を正した。
「はい」
コムイさんの指先が、羊皮紙に記された地図の一点へ触れる。
「場所は、東欧の辺境にある小さな村だ。三日前から連絡が途絶えている」
東欧。
その言葉だけで、冷たい風と、湿った石造りの家並みが脳裏に浮かんだ。
「最初に異変を知らせてきたのは、巡回中のファインダーだった。村の周辺で、イノセンスの反応に酷似した波形を確認したらしい」
「酷似した……?」
「そう。イノセンスと断定できないんだ」
コムイさんの声音から、普段の飄々とした軽さが薄れていく。