第15章 体育祭
歓声がまだ続くグラウンドに、次のアナウンスが響く。
「次の走者、3年生チーム!」
一瞬で視線が集まる。
ユカリがスタートラインに立つと、空気が変わった。
「お、来た来た」
「この人の番、絶対何か起きるやつじゃん」
妙な期待感すら漂う。
手渡された紙を開く。
「……」
少しだけ目を瞬かせる。
そして、すぐに決まったように頷いた。
「これだ」
走り出す方向は迷わない。
グラウンドを抜け、向かうのは――職員席。
観客がざわつく。
「え、職員席行くの!?」
「先生系お題か!」
そのまま足を止めた先。
視線の先にいたのは。
相澤消太。
ユカリは少し息を整えてから言う。
「相澤先生、来てください」
一瞬の沈黙。
相澤は無表情のまま紙を見て、そして――
「……誰だこんなくだらんこと書いた奴は」
鋭い視線が横に飛ぶ。
プレゼント・マイクが即座に指を立てる。
「俺じゃねぇよ!俺は“盛り上がると思って”だよ!」
「同じだ」
即答。
会場から笑いが起きる。
だが相澤はため息をつきながらも、歩き出す。
「ルールはルールだ」
「付き合ってやる」
その一言に、観客がさらに沸く。
「相澤先生来た!!」
「ガチで借り物してるの草」
ユカリは少しだけ安心したように笑う。
「ありがとうございます」
相澤は横に立ちながら小さく言う。
「信頼している先生、か」
「……まぁ、そういう評価は悪くない」
その言葉に、少しだけ空気が柔らかくなる。
職員席の一部では、別の教師たちが笑っている。
「珍しいですね、相澤先生がこういうのに出るの」
「生徒に弱いんですよ、あの人」
マイクがニヤニヤしながら相澤を見る。
「ほらな?盛り上がっただろ?」
「……次はお前を借りる」
「やめろ怖い!」
グラウンドでは歓声が続く。
ユカリと相澤が戻ってくるその姿に、実況も笑い混じりで声を上げた。
「これは豪華な“借り物”です!!」
そしてその様子を見ていた1年A組は――
「いやもう体育祭じゃなくてイベントなんよこれ」
「豪華すぎるだろ!」
笑いながらも、どこか納得していた。
この学校の“普通”は、最初から普通じゃないのだと。