第12章 夏休み
***
夜。
それぞれの部屋に戻ったあとも、静けさはやけに長かった。
爆豪の部屋。
ベッドに寝転びながら、スマホの画面を開く。
保存しているのは、今日送られてきた海の写真。
何気ない一枚なのに、妙に目が離せない。
「……チッ」
小さく舌打ちしても、指は止まらない。
目線の先には笑っているユカリ。
(……あの時も)
合宿の記憶が勝手に浮かぶ。
距離が近すぎた瞬間。
呼吸が混ざった瞬間。
そして――触れた唇の感触。
一瞬だったのに、やけに残っている。
「……クソ」
スマホを握る力が少し強くなる。
怒っているわけじゃない。
むしろ逆だ。
会いたい。
それだけが、やけに真っ直ぐに残っている。
***
別の場所。
轟焦凍の部屋。
こちらも同じようにスマホを見ていた。
画面には海の写真。
その中のユカリの笑顔。
静かに目を細める。
「………」
思い出すのは、あの訓練後。
距離がなくなった瞬間。
驚いた顔。
そして、柔らかかった感触。
一瞬で終わったのに、妙に残っている。
(ちゃんと、伝わってるといい)
そう思ったはずなのに。
今はそれ以上に。
(……会いたい)
静かな部屋の中で、それだけがはっきりしている。
***
爆豪は天井を見上げる。
轟は窓の外を見る。
場所も時間も違うのに、同じ結論にたどり着く。
「早く夏休み明けろ」
言葉にはしない。
でも、どちらも同じくらい強く思っていた。
会いたい。
ただそれだけが、夜を少しだけ長くしていた。