第6章 重症
「前まで後輩って感じだったのに」
朝の風が髪を揺らす。
ユカリは少しだけ頬を赤くしていた。
「急に距離近いし」
「はい……」
「真っ直ぐ“好き”って言われるし」
「はい……」
「優しくされると嬉しいし」
出久の心臓までドキドキしてきた。
そしてユカリは、小さく笑った。
「正直、困ってる」
「困ってる?」
「だって二人ともずるいんだもん」
その笑い方が、どこか照れていて。
出久は確信した。
(あっ……)
これ。
かなり脈ある。
「じゃ、じゃあ嫌ではないんですね……?」
するとユカリは目を丸くしたあと、少しだけ視線を逸らした。
「……嫌だったら、一緒に帰ったりしないよ」
「!!」
出久、心の中で悲鳴。
それ、かなり大きい発言だった。
「むしろ最近は……」
ユカリが小さく呟く。
「二人のこと考える時間、増えちゃった」
朝日に照らされた横顔は、どこか柔らかい。
恋を自覚しかけている顔だった。
出久が思わず固まっていると。
「おいデク」
低い声。
二人同時に振り返る。
通学路の先。
そこには、明らかに機嫌の悪い爆豪。
そして、その隣には静かな圧を纏った轟。
「あ」
最悪のタイミングだった。
爆豪の視線が、ユカリと出久を交互に見る。
「……何二人で登校してんだ」
「た、たまたま会ったんだ!」
出久、即答。
轟はじっとユカリを見る。
「ユカリ先輩、朝から楽しそうですね」
「え、うん?」
「何話してたんですか」
静かなのに逃げ場がない。
ユカリは一瞬言葉に詰まった。
――“二人のこと考える時間増えた”なんて話してました。
言えるわけがない。
すると出久が冷や汗を流しながら話題を逸らす。
「き、今日は天気いいね!!」
誰も乗らなかった。
沈黙。
そして爆豪が、ユカリの隣まで来る。
「……先輩」
「な、なに?」
「デクと何話してたか後で聞く」
近い。
しかも真顔。
轟も自然に反対側へ並んだ。
「俺も聞きたいです」
完全に挟まれた。
出久は思う。
(うわぁ……)
(これ、絶対二人とも気づいてる)
ユカリ先輩が、自分たちを意識し始めてることに。