第1章 先輩
春の終わり。
三年になった雄英高校は、進路やインターンの話でどこか浮き足立っていた。
その中でも、特に視線を集める人がいる。
三年ヒーロー科――ユカリ。
整った顔立ちに、柔らかな笑顔。
けれど戦闘訓練では圧倒的に強く、プロヒーロー顔負けの判断力を持つ有名人。
男女問わず人気があり、廊下を歩けば誰かしらが振り返る。
そして、そのユカリに――
二人の後輩が、本気で惚れていた。
一人目:爆豪勝己
放課後の訓練場。
「……っはァ!?またあの先輩んとこ行くのかよ!?」
怒鳴っているのは、一年の爆豪勝己 。
クラスメイトが「先輩に進路相談してもらう」と言った瞬間、爆豪は露骨に機嫌を悪くした。
「別にいいだろ、爆豪。なんでそんな怒ってんだよ」
「怒ってねェ!!」
完全に怒っていた。
耳まで赤い。
周囲はニヤニヤしながら視線を交わす。
「はいはい、またユカリ先輩のことか〜」
「うるせェ!!」
爆豪は昔から、誰かを素直に褒めるタイプじゃない。
けれど、ユカリのことだけは別だった。
実力も、判断力も、強さも。
全部認めている。
だからこそ、ユカリが他の男と話しているだけで無性に腹が立つ。
訓練後。
ユカリが一人で後片付けをしていると、後ろから乱暴な足音が近づいてきた。
「……先輩」
振り返ると、汗だくの爆豪が立っていた。
「ん? 爆豪くん、どうしたの?」
その柔らかい笑顔を向けられた瞬間、爆豪の心臓が大きく跳ねる。
(……クソ、かわいすぎんだろ)
「テメェさァ……」
「?」
「無防備すぎんだよ」
「え?」
「他の奴に簡単に笑いかけんな」
ユカリが目を丸くする。
爆豪は舌打ちしながら視線を逸らした。
「……勘違いするだろうが」
「勘違い?」
「……好きになんだろ」
空気が止まった。
爆豪は耳まで真っ赤にしながら、それでもユカリから目を逸らさない。
「俺ァ、もう無理だ。とっくに惚れてる」
「爆豪くん……」
「他の奴んとこ行くくらいなら、俺の隣いろ」
爆豪の手が、ユカリの腕をぐっと掴む。
独占欲が滲む、熱い視線。
「……絶対ぇ、俺が一番になる」