第15章 体育祭
体育祭は続く。
リレー競技の待機エリアは、独特の緊張感に包まれていた。
砂埃、実況の声、観客のざわめき。
その中心で、轟焦凍は静かにストレッチをしていた。
その瞬間。
3年テントの方から、よく通る声が飛ぶ。
「轟くん、頑張れー!」
ユカリの声。
轟は一瞬だけ動きを止める。
「……」
普通に走る準備をしていたはずなのに、心拍数が一段上がる。
(今のは……)
視線を向けると、ユカリが小さく手を振っている。
それだけで、体温が変わる気がした。
轟は数秒考えたあと、自然に口を開いていた。
「頑張るんで、ご褒美ください」
言ってから気づく。
(……今の、普通に言ったな)
3年テントが一瞬止まる。
ユカリも一瞬固まる。
そして――
「……か、考えとく」
少しだけ視線をそらしながら返す声。
その瞬間、轟の中で何かが“限界値”を超えた。
(……可愛い)
(いや違う、落ち着け)
だが無理だった。
完全に無理だった。
隣で準備していた出久に、唐突に振り向く。
「緑谷」
「はい!?」
真顔。
真剣。
「俺は発作で死ぬかもしれない」
「えっ!?」
出久の声が裏返る。
「どうしたらいい」
「どうしたらって何!?」
出久は全力で混乱する。
「いやその……発作って何の!?」
轟は淡々と続ける。
「今のやり取りで心臓が持たない」
「それはただのときめきだよ!!」
出久、即ツッコミ。
周囲の1年生もざわつく。
「轟やばくね!?」
「いや今のは仕方ないだろ!!」
その間にも、3年テントの方からまだ視線が飛んでくる。
ユカリは小さく手を振ったまま。
轟は深呼吸する。
(落ち着け)
(走る)
(勝つ)
そして最後にもう一つだけ。
(ご褒美は……あとで考えてもらう)