第4章 紅茶の香りは前世の記憶
「先生、ありがとうございました! ちゃんと勉強します!」
玄関の扉を開け、外へ出る先生の背中に声をかける。先生は振り返りもせず、片手を小さく挙げて応えた。
夕暮れの街灯が灯り始める帰り道。リヴァイはポケットの中で、きつく拳を握りしめていた。
彼女には、前世の記憶なんて一つもない。巨人の恐怖も、血の臭いも、自分と交わした熱い抱擁の記憶も、何一つ持たずに、この平和な世界で笑っている。
「……それでいい。お前は何も知らずに、ただのガキとして飯食って寝てりゃいい」
そう呟きながらも、リヴァイの口元は自然と緩んでいた。
あの紅茶の味。
湯気の向こうで笑う、記憶の中の彼女と、目の前の彼女が完全に重なった。
忘れているなら、それでいい。今度は血生臭い戦場ではなく、この穏やかな世界で、もう一度最初から始めればいいだけだ。
「まずは……来週の小テストで赤点を取らせて、職員室に呼び出すところからだな」
人類最強の男は、現代ならではの特権を存分に使うことを心に決め、少しだけ足取りを軽くして、夕闇の街へと消えていった。