【ヒロアカ】名前のない関係の終わらせ方【爆豪勝己】
第1章 1
「いたらこんなことしてないよ。」
透はからりと笑う。
その笑い方が妙に刺さった。
しばらく黙って、それから。
「……そうかよ。」
それ以上聞けなかった。
「じゃあ俺のことは」とは、死んでも口にできなかった。
「爆豪くんは良いね…踏込みすぎないでくれて。」
透は上体を上げて、横になっている爆豪を見下ろす。
「そーゆーとこ、好きだよ。」
頭を撫でる。
見上げた先の山吹色が、暗がりの中でやけに綺麗だった。
「好き」が友愛の意味だと理解している。理解していて——胸が軋む。
撫でられる手の下で、爆豪は目を細めた。猫みたいに。普段の凶暴さからは想像もつかない無防備な顔。
だが次の瞬間にはその目が鋭くなり、撫でている手首を掴んだ。
ぐい、と引き下ろして透を再び腕の中に閉じ込める。今度は上から抱え込む形。
「調子乗んな。」
声は低く、怒っているようにも聞こえる。
けれど透を抱く腕は震えながらも強くて、「踏み込みすぎないでくれて」という言葉が逆にどれだけ踏み込んでいいのかを測りかねている男の、精一杯の返答だった。
暗闇の中、ほとんど吐息の声量で。
「……ずっとこうでいい。」
それは確認ではなく、祈りに近かった。
透はその言葉に対して、沈黙で受け止めた。
返事がないことに、爆豪は安堵した。肯定でも否定でもなかったから。少なくとも今はまだ、この曖昧な場所にいられる。
夜風がカーテンをわずかに揺らし、ぬるい空気が足元をかすめた。けれど2人が重なる場所だけは温かいまま。
それきり口を開かなかった。目を閉じて、腕の中の体温を確かめ続けている。眠りに落ちるまで、たぶんこの手は離さない。
やがて、二人分の呼吸が同じリズムに揃っていく。
時計の針は深夜二時を回っていた。
明日になればまた何でもない顔で——いや、爆豪はいつだって何でもある顔をしているが——日常に戻る。
LINEで連絡をして、悪態混じりに駄弁って。たまにこうして身体を重ねて。名前のつけられない関係は、それでも今夜だけは少しだけ、輪郭が柔らかかった。