第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
「私ね……恵くんのことが大好きなの」
ずっと言いたかった言葉。
声に出せず、心の中で何度も繰り返してきた言葉。
一度口にすると、伝えたいことが次々に溢れてきた。
「恵くんが笑ってると、私も嬉しくなるの。辛いことがあったら、そばにいてあげたい……困ってたら、私が助けてあげたい」
少し恥ずかしかったけれど、もう隠したくなかった。
「……私、恵くんとずっと一緒にいたいの。守ってもらうだけじゃなくて、私も恵くんを幸せにしたい」
言い終えると、我慢していた涙がこぼれていく。
その時、ふわりと頭に大きな手が置かれた。
顔を上げると、恵くんが隣に膝をついていた。
「……あんたが十年間、から声を奪ったことは、許す気はありません。」
「でも、俺はあんたを裏切った男とは違う。は、俺が一生大事にします。絶対にひとりにはしません」
「……っ、恵くん……」
お母さんは、しばらく恵くんを見つめていた。
それから私へ目を向け、静かに微笑んだ。
「……大きくなったわね……」
あの巣で暮らしていた頃、私はただ生きるために、冷たい腕にしがみついていた。
「……お母さん」
今度は、生きるためじゃない。
手を伸ばし、お母さんの身体を抱きしめた。
細い背中に腕を回すと、ほんのりとした温もりが伝わってくる。
あったかい。
夢の中と、同じだ。
「私を生んでくれて、ありがとう。だから、私……恵くんと出会うことができたよ」
お母さんの腕が、私の背中に回された。
「お母さんと呼んでくれて、ありがとう。……幸せに、なるのよ」
その瞬間、腕の中の感触が、ふわっと消えた。
お母さんの身体が、幾千もの白い光の粒となってほどけていく。
最後に、春のような温かい風が私の頬を撫で、薄暗い工場の空気に溶けて消えていった。