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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **


***



「呼べ、!! 俺の名前を――!!」



恵くん、今、なんて……?


だめ。
そんなこと、できないよ!

だって、名前を呼んだら。


あの約束を破ったら、今度こそ姑獲鳥は恵くんを――。



『十年間、お前が俺を守ってくれたんだろ!?』



……どうして?
恵くん、知ってたの?

私が声を出さなかった理由。
ずっと、恵くんを守りたかったこと。


昨日、初めて恵くんの名前を呼んだ。

あの時は、どうしても離れてほしくなくて。
沙耶香ちゃんに取られるのが怖くて、恵くんを危険にさらすと分かっていながら、声を出してしまった。


でも、今は違う。
姑獲鳥がすぐそこにいる。

ここで名前を呼べば、結界の向こうにいる恵くんが私のいちばん大切な人だって、確実に知られてしまう。


怖い。
恵くんが死んじゃったら、どうしよう。

私のせいで、もう二度と会えなくなってしまったら。

そんなの、耐えられないよ……!



「!!」

「…………っ」



恵くん……。
いつだって、そうだった。

私がうまく気持ちを伝えられなくても、恵くんはちゃんと分かってくれた。


小さい頃、暗い押し入れの中で震えていた時も。
声を出して助けを呼ぶことすらできなかった私を、恵くんは見つけてくれた。

今だって、そう。

この布の向こうに私がいると信じて、何度も名前を呼んでくれている。


会いたい。
もう一度、顔が見たい。

恵くんに、抱きしめてほしい。

それに、まだ。
ちゃんと伝えられていないことが、たくさんある。


……だから、今度は私が恵くんを信じる番なんだ。


ゆっくりと息を吸い込んだ。


十年間、閉じ込めてきた声。

昨日は、失いたくなくて呼んだ名前。
今日は、自分の意思で恵くんに届けたい。

恵くん、信じるよ。

神様。
どうか、お願い。

恵くんを奪わないで。



「……め、ぐ……っ」



最初は、かすれた音しか出なかった。
それでも、お腹に力を入れて声を振り絞る。
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