第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
𓂃 side:伏黒恵 𓂃
何度調べても、姑獲鳥の気配は見つからない。
工場に入ってから、すでにかなりの時間が経っている。
割れた窓から差し込んでいた西日も弱まり、建物の中は少しずつ薄暗くなり始めていた。
足元を歩いていた玉犬たちも、手がかりを掴めないまま俺の周りをうろついている。
「一通り見たけど、やっぱりここじゃないかもしれないね」
いつの間にか近くに来ていた五条先生が、足を止めて言った。
「恵の推理は悪くなかったと思うよ。でも、これだけ探して綻びひとつ見つからないとなると、別の場所も探すべきかもね」
「…………」
俺の考えすぎだったのか。
ノートに残されていたあの『す』は、巣なんかじゃなかったのか。
もし、見当違いな場所を探して時間を無駄にしていたのだとしたら。
今こうしている間にも、は――。
……くそっ。
本当に、ここにはいないのか。
諦めて、別の場所を探すしかないのか。
重い足取りで五条先生と外に出ようとした、その時だった。
視界の端で、何かが揺れた気がした。
少し離れた作業台の奥に、大きな白いシーツが吊るされている。
薄暗くなった工場の中で、その布の一部分だけが、向こう側から照らされたようにぼんやりと明るくなっていた。
西日の反射か。
だが、その淡い光の中に、黒い影がすっと浮かび上がった。
小さな輪。
それが二つ、互いに重なり合って――。
二度、小さく揺れた。
「…………っ!」
今のを見間違えるはずがない。
十年前から、ずっと。
あいつが声を出せない代わりに、俺に向けてきた合図。
俺とだけが知っている、あの――。