第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
「そう考えると色々腑に落ちるんだよね。姑獲鳥が、あそこまでに執着する理由も。が五年間も姑獲鳥の呪いにさらされても、生き続けることができたことも」
「……それなら、姑獲鳥が恨むのは父親のほうでしょう。どうして、にまで……」
あいつは、ずっと声を出せなかった。
自分の名前すら呼べず、何か伝えたい時は、いつも筆談や手話をするしかなかった。
それが呪霊だったとしても、実の母親の仕業だったなんて。
「……自分の子供ですよね。だったら、なんであいつをあんなに苦しめたんですか」
五条先生は、しばらく黙っていた。
「母親だからこそ、かもしれないね」
「……は?」
「さっき、あの目撃者の子が言ってたでしょ。『この子を傷つけるものは許さない』って」
「…………」
「姑獲鳥は、を傷つけるものを排除しようとした。そこに、縛りの鍵がある気がするんだよね」
傷つけるもの。
俺はもう一度、机の上の写真を見た。
赤ん坊を抱く女は、穏やかな顔で笑っている。
この女が、から声を奪った。
いったい、何のために――。
「それにさ、もう一つ気になることがあるんだよね」
「……何ですか?」
「が保護されてからの十年間、ずっと守り続けてきた縛りを破ったこと。あの子の性格なら、自分が傷つくだけなら、とっくに声を出してると思うんだよね。誰かを助けるためなら、自分のことなんて後回しにしちゃう子でしょ?」
「……どういうことですか?」
「が本当に恐れていたのは、自分が傷つくことじゃないってこと」
「……?」
「声を出したら、他の誰かを殺すとでも言われてたんじゃない? 自分じゃなくて、大切な誰かを失うのが怖かった。それなら、が声を封じていた理由もわかる」
「…………っ」
大切な誰か。
あいつが、そこまでして失いたくなかった奴って……。
「もー、恵。鈍いなぁ」
五条先生は呆れたように肩をすくめると、俺の鼻先に人差し指を突きつけた。