第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
「はどうした!? お前、見てたのか!?」
「い、痛いっ! ちょっと、伏黒くん……!」
「……悪い」
我に返って手を放すと、同級生は掴まれていた肩を押さえながら、震える声で話し出した。
「一体、何なのよ……あれ……。音では何言ってるかわからないのに、意味はわかって。『この子を傷つけるものは許さない。殺してやる』って……! 私、怖くて動けなくて……。そしたら、さんが……あいつの前に立ったのよ……っ」
どういうことだ?
姑獲鳥は、を狙って現れたんじゃないのか?
なんで、じゃなくこいつを殺そうとする?
「それで、は?」
「さんを羽で包み込んで……。気づいたら、二人ともいなくなってた……」
同級生はそこで言葉を切ると、何かを思い出したように抱えていた鞄の中を探り出す。
「……あ、これ」
取り出した一冊のノートを、俺に差し出した。
「さんが、私に渡してきたの。あの化け物が近づいてきた時に……」
青紫色のカンパニュラが描かれた表紙。
見間違えるはずがない。
俺がに買ってやったノートだ。
ノートを受け取りページを開くと、見慣れたあいつの字が残っていた。
『にげて』
……。
お前、こんな時まで他人の心配してんじゃねぇよ。
の書いた文字を指でなぞる。
姑獲鳥が迫る中、必死にこの文字を書いたであろうあいつの顔が浮かんだ。
「お二人はこちらへ。安全な場所までお送りします」
補助監督が声をかけ、同級生とその連れの男を規制線の外へ誘導し始める。
同級生は数歩進んだところで足を止めた。
「……伏黒くん。さん、助かるよね?」
「ああ、絶対に助ける」
同級生は張り詰めていた表情を緩め、小さく頷いた。
補助監督に促されて歩き出すその背中を見送りながら、俺は手の中のノートを強く握りしめた。